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執筆者の写真Dr. K. Shibata

「知的体力」をどう伸ばすのか?-人的資本としての学習能力

更新日:1月2日

「知的体力」獲得のための障害は何か?学習の意味について考えます。




教育経済学者の中室牧子教授がThe Quarterly Journal of Economicsにアクセプト(受理され、これから必要であれば修正が加えられる)された、興味深い論文をXで紹介していました。


「Cognitive Endurance as Human Capital (人的資本としての認知的持久力)」


中室教授はこの力を「努力して考え続ける力」とも説明されていますが、私はこの力を「知的体力」と名付けたいと考えています。



昨年、以下の記事を書いたのですが、その後の観察から、「なぜ、学習を続けても、読解力が低いままなのか」、さらに言えば、「なぜ、簡単にフェイクニュースに騙されてしまうのか」、について新たな発見がありましたので、説明したいと思います。


読解力が低い日本人はどのように文章を理解しているのか?


実は読解力の低い人の多くは、学習に対して「省エネ」モードで対応しています。複雑なことを複雑なまま理解するには、大変な知的労力、エネルギーが必要になりますが、読解力の低い人は、このプロセスを意図的、あるいは無意識的に避けています。学習に対して、非常に不誠実な態度を言えるのですが、この理由としては、以下の原因が考えられます。


  1. 面倒くさい(ので、時間をかけたくない)

  2. すぐに結果を出さないといけない(テストでの回答など)ので、時間をかけずに、内容を理解したい

  3. 時間をかけずに理解するために、文章の筆者の主張や事実を、自分が理解できる範囲に単純化してしまう

  4. 文章の内容を単純化するために、文章内の語彙を恣意的に繋ぎ合わせ、筆者の主張とは違う、自分の「好みのストーリー」に脳内で転換してしまう


フェイクニュースが拡散され、それを信じる人が多いのは、ここでいう「知的体力」が低く、しかも上記の4でいう自分好みのストーリーを、他人が作ってくれるから、という理由も多々あると思います。学習のための「ライフハック」が流行るのも、知的体力が無い人が増えていることが一番の理由のような気がしてなりません。


上記の論文は調査の対象者が生徒のようですが(まだ読んでいません)、日本で中学受験が一般化し、過当な競争の中で、このライフハック的な勉強術で現状を乗り切ろうとする学生が増えているような感想を持っています(そのような学生に多く出会います)。


本来、学習することは、何らかの「結果」をすぐに出すことではなく、自分が知らなかった、これまで気づいていなかった、未知の事象を発見する喜びに満ちたものであるべきだ、と私は信じてやみません。どのような環境を整えれば、あるいは指導をすれば、「未知なるもの」と出会う楽しさを知ることができるようになるのでしょうか。「知的体力」を伸ばすには、何が必要なのか、上記の論文を読んで、よく考えてみたいと思います。


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