top of page
執筆者の写真Dr. K. Shibata

知性と英語力の相互関連性とは何か?: 第二言語の習得が分析的思考力を高める

英語力の増強が知性の強化に繋がる。



「日本人の英語力」について、納得のいく結果だな、と思うニュースが流れてきました。


日本人の英語力、非英語圏で92位に後退:スイスの教育機関2024年調査


それと、同時にXで以下のポストを見かけましたが、「日本人の知性と英語力の停滞」、両者の関係性は偶然ではないはずです。

なんというか、バラエティーみて自己啓発本読んで筋トレしてNISAに励んでいる間に、歴史とか社会学の基礎教養レベルがすさまじく落ちて、30年の停滞どころか先進国から墜落しきったのが今の日本なんだなあと深く思う。学校教育って、考えさせる教育って、本当に大事だね。

@OneMoreChance99


私は自分が英語の文章を理解する際、そして生徒の英語指導をした経験から、「英語長文の読解に必要な能力」は重要度順に、以下の5つであると思います。


  1. 母語の国語力、読解力、論理的思考力(大意を掴む力)

  2. 話題に関する背景知識

  3. 文の構造(文型)を捉える力

  4. 個別の英語文法の運用能力

  5. 語彙力


実際、米国の大学付属の英語コースでは上記のように指導していましたし、読解のスピードを上げるためには、辞書を引くのは最後だ、とも言われていました。一方、日本の英語教育では、重要度の順序がこの逆である、という印象を持っています。


大人になって英語を学ぶメリットはまさに、この1と2であり、日本の学生が英語の論説文の理解に苦戦しているのは、実は英語の語彙力もさることながら、現代社会の基礎知識の欠落が大きい、と感じています。上記のポストに対して、私は以下のように引用ポストを付けました。

大学入試とか英語資格試験の長文問題は、ほとんど論説文。だから、国語力と現代社会の基礎知識がないと、解答が難しい問題が多い。最近、日本人、特に若年層の英語力が落ちているのは、「社会」に関する教養や知識の欠落があるんだろうな、と思う。

そして日本語の運用能力も英語の理解に大きく影響することは、前回も記事にしています。これは、いわゆる「バイリンガル」の環境で学習した生徒への指導から得た知見です。


外国語学習の科学: 脳科学からのアプローチ|Global Agenda 


これまで、帰国子女や両親のどちらかが外国人という若い学生を指導してきた中で顕著だったのは、複数の言語の運用能力が高いグループと、どの言語の運用能力も課題があるグループと、二つに分類され、どちらか一方のみの言語運用能力が高いグループは存在しなかったことです。すなわち、母語の発達が不十分だと、第二言語のレベルもそれを超えることは、なかなかできません。ただし、いったん指導を始めると、一方の言語能力が伸びれば、別の言語の運用能力も足並みを合わせて発展させることができる、ということも発見しました。すなわち、外国語を習得することで母語の運用能力も強化されるのです。

Global Agenda


上記の指摘を裏付ける研究も数多くあるということを、最近発見しました。以下の記事に、その理由が詳しく解説されています。


なぜ「英語」を正しく学んだ子は、「国語」の点数が高まるのか? | 世界最高の子ども英語 | ダイヤモンド・オンライン 


日本語を母語とする日本人は、通常、文法のルールや発音などを、殆ど気にせず、話したり、読んだりしています。こののような知のあり方を暗示的知識(Implicit Knowledge)と呼びます。一方、母語で文章を書く時、また外国語を学習する場合は、通常は注意を払っていない文法ルールについて、自覚的になります。外国語を学ぶことにより、母語である日本語についても概念的に理解することができるようになるのだそうです。このプロセスをつうじて、言語の運用について、明示的知識(Explicit Knowledge)を得る機会が生まれる、というのが上記の記事の著者の解説です。


自分が使用している言語を客観的に分析する能力を、言語学の世界ではメタ言語意識(Metalinguistic Awareness)と呼んでいるらしいのですが、この能力が、分析的な思考能力にも通じており、アカデミックな能力の向上につながる、というのが以下の論文の指摘です。


Bilingualism in development: Language, literacy, and cognition. 


一方、バイリンガルである、ということは利点だけでもないことがわかってきました。以下の、British Councilが発表した記事に、「バイリンガルの言語能力は、モノリンガル話者よりも一般的に弱い」。という研究結果が紹介されています。


Does being bilingual make you smarter? 


この指摘のもっともよく知られた事例が、バイリンガルの人、特に子供が直面する「ダブルリミテッド」の問題です。


「ダブルリミテッド」とは?【知っておきたい教育用語】|みんなの教育技術 


「ダブルリミテッド」とは、二つの言語を使える環境にいる(いた)のに、どちらの言語も不十分な言語能力しか獲得できていない、未発達の状態を指す言葉です。私も、この問題を抱えたお子さんを多数知っていますし、その指導もしてきました。しかしながら、上記のBritish Councilの記事もバイリンガルであることは不利益よりも利益が勝る事実を詳細に説明していますし、多くの研究が、この知見を裏付けています。


The Cognitive Benefits of Being Bilingual


下記の記事も、「バイリンガルであること」が知性を強化する現象を、より分かりやすく説明しています。


Guess why bilinguals are so smart… It’s the brain connection!


今の日本の英語教育の現状は大変残念ですが、「英語学習」には、単なる語学の習得に終わらないメリットがあることを、みなさんには自覚していただきたいと思います。


この記事に関心のある方は以下のニュースレター@Substackに登録していただくと最新の記事が届きます。


【英語で学ぶ現代社会】を無料ニュースレター@Substackで購読しませんか?

閲覧数:12回0件のコメント

コメント


bottom of page