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曖昧さへの耐性:知性を高めるために必要な思考とは

  • 執筆者の写真: Dr. K. Shibata
    Dr. K. Shibata
  • 9月21日
  • 読了時間: 4分
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X上で以下の興味深い概念の紹介を見つけました。@panicOK_bot氏いわく、『答えの出ない宙ぶらりんの状況に耐える力』のことを、心理学では『曖昧さ耐性/不確実性への耐性(tolerance of ambiguity)』などと呼ぶ、と言及しています。以前、どこかで目にした専門用語だったのですが、あまり深く調べないままやり過ごしていました。しかし、スマホ、インターネット、AIが当然のように、瞬時に疑問の答えを提供してくれる現代において、「人間とは何か」「知性と発見」「教育」などにおいて非常に重要な思考及び行動習慣だと思います。



この方は、カルトやフェイクニュースに対抗する力として「曖昧さへの耐性」を紹介していたのですが、私はこの概念が持つ別の側面、「多様性に対する許容から生まれる創造性の可能性」により深く惹かれたのです。以下、英文の学術雑誌がTolerance of AmbiguityについてのAIによる定義と複数の論文を紹介をしています。


Tolerance of Ambiguity


「Tolerance of ambiguity is defined as a propensity to perceive ambiguous situations as desirable, often characterized by a tolerance of disorder and an attraction to complexity. It is associated with traits such as flexibility, openness to experience, and risk-taking.」

AI generated definition based on: Encyclopedia of Creativity (Third Edition), 2020


なかでも重要だと思ったのが「曖昧さへの耐性は創造的作業において最も重要な特性」だとの説を紹介した書籍「Creativity: Research, Development, and Practice (Third Edition)」の一章「Chapter 2 - Personality and Motivation」です。これは研究開発における研究者の態度を示したものですが、この中で筆者のMark A. Runco氏は以下のように述べています。

 

「Tolerance of Ambiguity:Vernon (1970) seemed to think that tolerance of ambiguity was the most important trait for creative work (cf. Golann, 1962; Stoycheva, 2003a, 2003b). Tolerance of ambiguity may allow the person to deal with the ill-defined nature of problems that have creative potential. It may also allow the creator to tolerate the range of options that should be considered. 【意訳】 ヴァーノン(1970)は、曖昧性への耐性が創造的作業において最も重要な特性であると考えていたようである(Golann, 1962; Stoycheva, 2003a, 2003b 参照)。曖昧さへの耐性は、創造的な潜在性を持つ問題の不明確な性質に対処することを可能にさせるかも知れない。また、創造者が考慮すべき選択肢の幅を広げることを容易にさせるかもしれない。」

日本語・英語両方の論文指導をしていますが、「正解のない問題」に対処できない日本人の学生が以前にも増して多くなっているように思います。一方、近年は、日本の大学入試でも小論文を課す入試形式が増え、英検でもライティング問題が増えるなど、正解のない問題について受験生がどのように議論しているかを評価する試験形式が一般的になりつつあります。それなのに、自分なりの答えに辿り着くための読書や熟考を忌避して、すぐに結果を出す「書き方」を教えてほしいという不満を訴える学生が、いまだに日本では多いと感じています。


論文を書くためには、たとえ短いものであっても、「書き方」(how to) よりも先に、「何を(what) を書くか」が重要なのですが、これがなかなか伝わりません。しかも、そういう学生に限って、答えを出すための読書を殆どしていなかったりするのです。論文形式の筆記試験はスマホはもちろん持ち込み出来ませんが、学習でも生活でもスマホ・インターネットがあたりまえの生活に慣れてしまうと、「自分で深く考える」習慣というものが、面倒くさく、タイパが悪い、と感じられるのでしょう。


生身の人間の思考や考え方をアルゴリズム・AIに乗っ取られる、という非常に怖い世界が既に現実になっています。先日、NHKで放送されたドキュメンタリーがまさにそれでした。SNSによって洗脳されたり、騙されたりしたこどもの被害者の母親たちが立ち上がった物語です。


「SNSのワナ ビッグ5と闘う女性たち」


原語版の予告動画は下記で閲覧ができます。


The Social Trap: 5 Women vs the Big 5


「知性を高めるためには『わからない』状態が必要」と説く以下の書籍の指摘もこの問題を考えるうえで有効なようです。


『知性の罠 なぜインテリが愚行を犯すのか』(デビッド・ロブソン著/土方奈美訳/日経ビジネス人文庫)


皆さんはどう思われますか?


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